仙台高等裁判所 昭和53年(ネ)381号 判決 1980年12月24日
控訴人
有限会社郡山青果運輸
右代表者
面川陸男
右訴訟代理人
滝田三良
被控訴人
東印郡山青果株式会社
右代表者
大河原和夫
右訴訟代理人
大堀勇
同
大堀有介
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一被控訴人が昭和四五年四月一日、果実、そ菜、食料品、菓子、鶏卵等の売買、委託販売ならびにそれらの製造販売を目的として設立された会社であること、控訴人がその設立中に運輸大臣から特定貨物自動車運送事業の許可を得た上、昭和四八年一一月五日特定貨物自動車運送事業を目的として設立された会社であること、被控訴人が控訴人に対し、主としてバナナ、生パイン等の運送の依頼をなしてきたところ、被控訴人が、昭和四九年一二月一〇日控訴人に対するバナナ、生パインを含む一切の運送依頼を中止したことおよび被控訴人が、昭和五二年四月一八日本件契約を解除する旨の意思表示をなし、右意思表示がその頃控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。
二<証拠>によれば、訴外柳沼武夫は、自家用自動車を使用して、被控訴人の依頼により貨物運送の仕事をしていたところ、昭和四七年頃から運送量が増えたため、控訴人である会社を設立して特定貨物自動車運送事業を営もうと考え、同訴外人および訴外川田良雄が控訴人の設立代表社員に就任し、被控訴人に対し、道路運送法所定の運送需要者になられたい旨懇請してその承諾を得た上、昭和四八年一月五日、右設立代表社員川田良雄と被控訴人との間で、将来、控訴人が道路運送法所定の特定貨物自動車運送事業の許可を受けることを条件に、被控訴人を荷送人、控訴人を運送人とし、運送すべき貨物を青果物、そ菜、食料品、菓子、鶏卵、その年間推計輸送量を三、二七九トン、運賃を昭和四六年五月一五日仙台陸運局長認可仙陸自貨第二三二号の運賃料金表による額によるものとし、被控訴人の随時の求めにより運送すべく、右契約期間を一〇年とする旨の契約(以下本件契約という)を締結し、昭和四八年二月一〇日、控訴人の設立代表社員川田良雄において、仙台陸運局長に対し特定貨物自動車運送事業の許可を申請し、同年六月三〇日同陸運局長から事業区域福島県、運送需要者被控訴人、運送する貨物の種類は青果物、そ菜、食料品、菓子、鶏卵とする特定貨物自動車運送事業の許可を受けたこと(特定貨物自動車運送事業の許可を受けたこと自体は争いがない)、控訴人は前記設立の頃から、前記被控訴人からの運送依頼を中止されるまでの間、被控訴人の随時の求めにより、被控訴人が輸入業者から買付けたバナナ等前記青果物等を、荷捌きのあつた東京都晴海港等から被控訴人の本店所在地の福島県郡山市までの間、前記のとおり運送し来つたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
ところで、特定貨物自動車運送事業は、特定の者の需要に応じ一定の範囲の貨物を運送する自動車運送事業であり(道路運送法三条三項二号)、自家輸送の代行事業たる性格を有するものであるが、この事業を経営しようとする者は運輸大臣の許可を受けなければならず(同法四五条)、この法律に違背したときは運送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止を命ぜられる(同法四五条五項、四三条)などの制裁を受けるものであるから、特定貨物自動車運送事業者は、許可にかかる需要者以外の者からの正規の運賃収入は期待できないのである。
右認定の妻によれば、本件契約は、当事者双方がかかる事情を知りながらこれを締結したものであることを窺うに十分であるから、被控訴人は特段の事情のないかぎり、本件契約に基き、契約期間中、約旨に従つた運送の依頼をなすべき義務を負うものと解するのが相当である。
三しかるところ、被控訴人は、控訴人が運送契約の誠実な履行を怠つたため運送の依頼を中止し、かつ本件契約を解除する旨の意思表示をなすに及んだものであつて、運送の依頼をなさなかつたことにつき被控訴人側の責に基づくべき事由がなかつた旨主張するので判断する。
荷送人が将来、一定の期間にわたり、特定範囲の貨物を、一定数量の範囲で運送を依頼すべき旨を運送人に約したときは、荷送人は、右約旨に従つて、継続的に運送を依頼すべき義務を負うことは前叙のとおりであるが、運送人が過去の具体的運送契約につき債務の本旨に従つた履行をなさず、荷送人の注意にもかかわらず運送人において、相変らず従前の態度を改めず、その結果、将来にわたつても債務の本旨に従つた運送義務の履行が期待できないときは、荷送人は、先履行をなすべき具体的運送の依頼を中止し、かつ、基本たる契約の解約を告知して、運送を依頼すべき義務を将来にわたつて免れることができるものと解すべきである。
そこで、これを本件についてみるに、<証拠>によれば、控訴人が被控訴人の依頼により運送して来た貨物は、前記のとおり被控訴人が輸入業者から買付けたバナナ、生パイン等の熱帯産果実であつて、寒気により損傷を蒙り易く、冬期の運送に際しては、シート二枚若しくは三枚で貨物たる果実を覆つて保温しなければならないにもかかわらず、控訴人の運転手は、冬期の運送に際し、かかる運送方法を励行せず、果実を損傷して被控訴人に損害を加えることがあつたこと、そこで被控訴人は、控訴人にしばしばこの点を注意して改善を求めたが、控訴人においては運転手がしばしば変つたこともあつて、前記運送方法が何ら改善されることがなかつたこと、また、バナナを除く果実は、被控訴人が早期に開かれる市場に出荷するものであるが、右出荷に間に合わないで次回の市場に出荷するときは、果実の鮮度が落ちるほか、値動きによつて損害を蒙ることがあるため、運送貨物は当日の朝市出荷時刻前に到着することを要するところ、控訴人の運送到着時間が予定の午後一二時をしばしば遅れ、翌日の午前一〇時以降に到着することがあり、これにより被控訴人が損害を蒙つたこともあり、被控訴人はこの点についても控訴人に注意して改善を求めたが、これまた改善のあとがみられなかつたほか荷扱いが乱暴で貨物に損傷を加えることもあつたため、被控訴人は前記のとおり運送を中止し、さらに昭和五〇年一月頃控訴人代表者に面談して運送方法の改善策等の提示を求めたが応答がなく、また運送の申込みもなかつたため、前記のとおり被控訴人において本件契約を解除する旨の意思表示をなしたことが認められ<る。>
四しからば、被控訴人が控訴人に対する運送の依頼を中止したことは、前記説示するところにより正当であり、これが違法であることを理由とする控訴人の本件主たる請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべく、また、控訴人の当審における予備的請求も、前判示のもとにおいては、その前提を欠き理由がないことが明らかであるから、これを棄却すべきである。
五よつて、原判決は正当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴人の当審における予備的請求もまた理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。
(小木曽競 井野場秀臣 田口祐三)